この記事について
介護と仕事の両立に悩む従業員にとって、企業の支援制度があっても「何から手をつければいいかわからない」「相談しても結局一人で解決しなければならない」と感じることはありませんか?この記事では、介護の両立支援における現場の盲点と、本当に従業員が求めている「伴走型サポート」について、実体験をもとに解説します。
【この記事のポイント】
- 介護の両立支援で見落とされがちな3つの盲点とその対策
- 「相談」と「報告」の違いが両立支援の成否を左右する理由
- 従業員が本当に必要としている「伴走型サポート」の具体的内容
介護の両立支援とは
介護の両立支援とは、家族の介護を担う従業員が仕事を続けられるよう、企業が制度やサービスを提供することです。2017年の育児・介護休業法改正により、企業には介護離職を防ぐための環境整備が義務付けられました。
しかし、制度があることと、従業員が実際に活用できることは別問題です。厚生労働省の調査によると、介護を理由とした離職者数は年間約10万人にのぼり、企業の支援制度が十分に機能していない現状が浮き彫りになっています。
介護の両立支援における3つの盲点
盲点1:混乱を整理する支援がない
介護が始まると、従業員は突然大量の情報と選択肢に直面します。
- 介護保険の申請手続き
- ケアマネージャーとの連携
- 介護サービスの選択
- 仕事との調整方法
企業は制度の説明資料を渡すだけで終わることが多く、従業員一人ひとりの状況に合わせた優先順位の整理や具体的な行動プランの提示はほとんど行われていません。
盲点2:地域差・距離の問題が想定されていない
介護の両立支援制度は、多くの場合「親が近くに住んでいる」ことを前提に設計されています。しかし現実には以下のような課題があります。
遠距離介護の場合
- 移動時間だけで半日を要する
- 地域によって介護サービスの質・量に大きな差がある
- 現地の情報収集が困難
地方の親を都市部から支援する場合
- 企業の提携サービスが親の居住地域では利用できない
- 地域包括支援センター(介護の総合相談窓口)の体制にばらつきがある
- 兄弟姉妹間での役割分担の調整が複雑
盲点3:「相談」と「報告」の違いが理解されていない
多くの企業が「相談窓口」を設置していますが、その窓口が実際に機能するかは、相談を受ける側の姿勢によって決まります。
「報告」で済む関係性の特徴
- 制度の説明をして終わり
- 従業員からの質問に答えるだけ
- 具体的な行動プランは従業員任せ
「一緒に考える」関係性の特徴
- 従業員の状況を詳しく聞き取る
- 複数の選択肢を整理して提示する
- 次回のフォローアップを約束する
私自身の経験では、産業医に相談できたのは「一緒に考える必要性」があったからでした。一方、非常勤先に相談しなかったのは、「報告で済む」関係性だと感じたからです。
📌 ここまでのポイント
- 制度があっても従業員が活用できない3つの盲点が存在する
- 遠距離介護や地域差への配慮が不足している
- 相談窓口の質が両立支援の成否を左右する
本当に必要な「伴走型サポート」とは
制度説明ではなく「今やるべきこと」の明確化
介護に直面した従業員が本当に求めているのは、制度の詳細な説明ではありません。混乱状態にある中で「今、あなたがやるべきことはこれです」という具体的な道筋を示してもらうことです。
伴走型サポートの具体例
| 段階 | 従業員の状況 | 必要なサポート |
|---|---|---|
| 初期 | 親の介護が必要になった | 1週間以内にすべき3つのことをリスト化 |
| 中期 | 介護保険申請中 | ケアマネージャー選びのポイントを整理 |
| 安定期 | サービス利用開始 | 仕事との調整方法を具体的に相談 |
継続的なフォローアップ体制
介護の状況は時間とともに変化します。一度相談して終わりではなく、定期的な確認と必要に応じた支援内容の見直しが重要です。
効果的なフォローアップの流れ

周囲の理解と協力体制の構築
介護を担う従業員だけでなく、その上司や同僚も状況を理解し、適切にサポートできる体制を整える必要があります。
周囲のステークホルダーが抱える課題
- 上司:どこまで配慮すべきか判断に迷う
- 同僚:急な休みのフォローによる負担増
- 人事:個人情報保護と情報共有のバランス
これらの課題に対応するため、介護を担う従業員だけでなく、職場全体での理解促進と現実的な業務調整方法の検討が必要です。
企業が今すぐできる改善策
相談窓口の質的向上
改善前(報告型)
- 制度説明資料を渡して終了
- 従業員からの質問待ち
- 単発の対応
改善後(伴走型)
- 従業員の状況を詳細に聞き取り
- 優先順位付きのアクションプランを提示
- 定期的なフォローアップを実施
地域特性を考慮した支援メニュー
- 遠距離介護の従業員向けの特別休暇制度
- 地方の介護サービス情報の収集・提供
- オンラインでの相談体制整備
管理職向けの研修強化
管理職が介護の両立支援について正しく理解し、適切な対応ができるよう、以下の内容を含む研修を実施します。
- 介護の基礎知識
- 法定制度と社内制度の使い分け
- 部下からの相談への対応方法
- 業務調整の具体的手法
よくある質問(FAQ)
Q1. 介護の両立支援制度を利用すると、キャリアに悪影響がありませんか?
A. 適切に運用された両立支援制度は、むしろ従業員のロイヤルティ向上と組織の生産性向上に寄与します。重要なのは、利用者が不利益を受けない組織風土を作ることです。
Q2. 遠距離介護の場合、どのような支援が効果的ですか?
A. 移動時間を考慮した連続休暇制度、現地の介護サービス情報の提供、オンラインでの相談体制などが効果的です。また、現地の地域包括支援センターとの連携も重要です。
Q3. 介護の相談をしたいのですが、どこから始めればいいかわかりません。
A. まずは親の要介護認定の申請から始めましょう。同時に、会社の相談窓口に連絡し、今後の流れについて具体的なアドバイスを求めてください。
Q4. 管理職として、介護を担う部下にどう接すればいいでしょうか?
A. 定期的な面談で状況を確認し、業務調整の可能性を一緒に検討してください。一人で抱え込まず、チーム全体での支援体制を考えることが重要です。
Q5. 介護離職を防ぐために企業ができることは何ですか?
A. 制度整備だけでなく、従業員一人ひとりの状況に寄り添った「伴走型サポート」の提供と、職場全体の理解促進が最も効果的です。
まとめ
介護の両立支援において、企業は制度の整備だけでなく、従業員の混乱を整理し、具体的な行動指針を示す「伴走型サポート」を提供することが重要です。地域差や距離の問題を考慮し、「相談」と「報告」の違いを理解した質の高い支援体制を構築することで、介護離職の防止と組織全体の生産性向上を実現できます。
明日からできる最初の一歩: 介護に関する悩みを抱えている場合は、まず会社の相談窓口に連絡し、「今やるべきことを整理したい」と具体的に伝えてみてください。
ご相談・お問い合わせのご案内
介護の両立支援でお困りの企業様や従業員の皆様は、専門家による個別相談をご利用いただけます。一人ひとりの状況に応じた具体的なアドバイスと継続的なサポートを提供いたします。お気軽にお問い合わせください。
執筆者情報
吉澤文子 保健師、精神科看護師、公認心理師、両立支援コーディネーター
参考文献
免責事項
本記事は2026年3月時点の情報に基づいています。最新の情報は厚生労働省や専門家にご確認ください。

